基本は「信頼関係」を築くこと

 認知症を患うと、以前よりも物事を上手く行うことが難しくなってしまいます。しかし認知症の初期では、その事を本人は理解しています

 「以前の様に上手くできない」と感じていますが、「それを言い出すのは恥ずかしい」「これは年だからしょうがない」「家族の手を煩わせるのではないか」「テレビの認知症特集のような、あんな姿は見せたくない」などと考えています。

 たとえ親子であっても、やはり自分の弱みを他人に見せるのは、恥ずかしいものがあります。

 ですが、心のどこかでは「助けて欲しい」と思っており、さりげない気遣いや手助けを望んでいるのです。

 本当は助けて欲しいけど言い出せないジレンマの中で、家族など身近の人に失敗などを怒られることが続けば、不安感や恐怖感などから強いストレスがかかり、精神的に不安定になります。

 そうなると、すぐ怒ったり、夜に落ち着きがなくなったり、幻覚・幻聴や妄想などが出現します。本人が安心して落ち着ける場、雰囲気作りを行いストレスをかけないよう心がけるだけで、認知症症状や問題行動などを和らげることができるでしょう。

 逆に、十分に信頼関係が築けている場合は、非常に頼られる存在です。そのため、あれやこれやと様々な要求をすることがあります。

 時には、きつく当たられることもあるでしょう。ですが、それは信頼しているからこそ、自分の本心を隠さずに相手に訴えることができる関係である、と前向きに考えることも必要かと思います。

 また、それが家族にとっては悩み事やストレスになることもあります。そのような時は、よく話しをしてみるのはいかがでしょうか。

 十分な信頼関係が築けているからこそ、お互いに腹を割った話しをするものよいかもしれません。

よい感情を残すようにする。

 認知症が進行してくると物事の事実関係は忘れてしまいますが、その時感じた感情は心に長く残っています。「失敗した事柄」は忘れてしまい「怒鳴られた・怒られた」という感情だけが残ります。「あの人は怖い人・すぐ怒る人、だから嫌い」などという感情だけが残ってしまい、お互いに信頼関係を築くことが難しくなってしまいます。

 高圧的な言葉や態度は、本人に精神的な苦痛を与えることになります。介護でつかれているときなどは、つい口調が強くなりがちですが、心理的虐待になってしまいます。

 また理解してもらおうとあれこれ説明するよりも、やんわりと優しく接することが良いです。私たちも難しい話しよりも、ちゃんと自分の話しを聞いてくれる方のほうが、接しやすいのは同じだと思います。

 いつも笑顔で接していれば、相手も笑顔で安心できるでしょう。また言葉でのコミュニケーションが難しくなってしまっても、笑顔で接することが重要です。

本人のペースに合わせる。

 思考力や動作が遅くなるため、一度に処理できる仕事量が減ってしまい、何をするにも時間がかかってしまいます。

 ですが何も出来ないわけではないため、急かしたりイライラせずに、本人のペースに合わせましょう。

 他にも、認知症は「そのエピソード自体が記憶ない」というもの忘れのため、「記憶にないことは知らない、自分がやったんじゃない」と考えます。私たちも、身に覚えのないことを注意されても、「記憶にない事(自分はやってない事)をいくら言われても、知らないものは知らない!」と腹を立てますよね。

 本人が知らない・違うと言ったら、事実と異なっていても本人の中では嘘や作り話をしているわけではないので、深く追求しないようにしましょう。

 本人の自尊心や感情を傷つけないことも大切です。

まとめ

 認知症が進行すると、最近の出来事を思い出すことも難しくなってしまいます。そのためにさっき質問したことを忘れて、同じ質問を何度も繰り返すために、家族や周囲をイライラさせたり、家族からは煙たがられる場面も出てくるでしょう。ですが本人は何度も同じ質問をしているという自覚はないので、どうして家族がイライラしていたり、怒ったりするのが理解できません。

 更に、以前の様に日常生活が上手くできない場面が出てきます。自分自身では解決できないために、「わからない」「昔のように出来ない」と感じます。人によっては「自分が壊れていくようだ」と感じる人も居るでしょう。そのような時、本人が感じる自分が自分で無くなっていく感覚・認知症に対する恐怖は、想像を絶するものがあるのではないでしょうか

 不安・恐怖を感じている状況で家族に頼りたいのに、強い言葉で何度も注意されたり叱られたりすれば、精神的に不安定になったり、いずれは強い孤独感を感じ行動が消極的になってしまうでしょう。

 家族や周囲の人にとって大切なことは「忘れてしまうのは、病気である」ということを理解して、本人の気持ちに寄り添った対応を心がけることが必要です。

 「正しいこと・失敗しないこと」というよりも、「どうしたら円滑・円満に事が運ぶか」を優先して対応することが基本です。円満な解決により、安心・一体感が生まれ、よりよい強い信頼関係を築けるでしょう。

 認知症の方は、自分を理解して接してくれる人を頼りにしています。「この人に全て任せておけば私は安心だ」「あの人の傍に居れば認知症は怖くない」と安心感と信頼感を築けば、結果として認知症の進行を遅らせ、不穏や暴言などの様々な周辺症状も軽減することができるでしょう。

問題行動専門もの忘れ外来

 問題行動(怒りっぽい、徘徊、介護拒否、物盗られ妄想、幻覚等)は認知症の合併症状です。認知症と問題行動は同時に診断・治療するをする必要があります。

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